名古屋陽子線治療センター

生活の質(QOL)に優れたがん治療の実現を目指して。

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センターの取り組み

ホームセンターの取り組み2020年度までの総括

名古屋陽子線治療センター 準備期から2020年度までの総括

2021年3月22日
名古屋市立西部医療センター
陽子線治療センター長

1.名古屋陽子線治療センターの設立意義

 平成18年(2006)度に来るべき高齢化社会を見据え、QOL(quality of life)にすぐれたがんの治療法としての粒子線治療の導入を検討するため、「苦しまないがん治療検討委員会」によりその実現性と課題が話し合われ、市議会での議論の後に陽子線治療施設の整備を行うことが決まった。

 様々な克服すべき課題はあるものの東海3県初となる陽子線治療施設を整備することは、これまで遠方での治療を余儀なくされていたこの地域の人たちの利便性を向上させるとともに、広域的に患者を集めることでエビデンスの構築が可能になると考えられる。そして、それらのエビデンスに基づき保険適用がなされることで、多くの市民が陽子線治療を利用しやすい環境を整えることが当センターにとっての最も重要な課題であり、さらには積極的にさらなる新規技術の導入にも取り組み、発展させていくことで最新医療技術を市民に提供し続けていくことが当センターの設立意義であると考える。

2.医療としての有用性と課題

 がんに対する主な治療法として手術、化学療法にならぶ柱のひとつである放射線治療は、欧米諸国と比較し日本国内においてはいまだその位置づけが十分とは言えない状況にある。

 放射線治療は放射線の強い殺細胞効果を利用することで、多くの場合外来で根治的な治療が可能であるという特性をもっている。2020年のコロナ禍において院内感染やその発生懸念から手術の実施が制限された病院が多数存在したが、そのような状況にあっても当院における陽子線治療患者数は増加傾向を示し、2020年度は過去最高の治療患者数を記録している。今後、現在のコロナ禍が終息してグローバルな経済活動などが再開されたのちにも、別のウイルスなどによる再度のパンデミックの発生については常に考慮しておくべき世界的な課題と思われる。感染症の蔓延下においても根治的ながん治療を外来で行いうる高精度放射線治療を普及させることは、社会全体のがんに対する重要な備えとなると考えられる。そして、それを実現するためには多くの若い人材が放射線治療に興味をもち、それらを育成するシステムを構築することが重要であると思われる。

 ブラッグピークを利用した粒子線治療は、現在行われているX線を利用した最新の高精度放射線治療と比較しても新規性が非常に高く、特に当センターにおいてはアジアで初めての導入技術であるスポットスキャニング法を採用していることもあり、全国から医学生や臨床研修医が多数見学に訪れ、結果として放射線治療を目指す医師が増え、名古屋市内、愛知県内をはじめ東海3県の放射線治療医の増加につながってきたと考えている。また、チーム医療が極めて重要な放射線治療において、診療放射線技師、医学物理士、看護師などの幅広い職種が陽子線治療に取り組むことを希望して集まり、各職種において科学的な問題意識をもって業務に取り組んできた結果、学会発表による情報発信を積極的に行うことができていると考えている(2020年12月現在主著、共著あわせて国際学会発表数114演題、国内学会発表数243演題)。

 問題点としては現段階において、多くの疾患が保険診療ではなく先進医療という枠組みでの医療提供となっているため、患者の経済的負担が大きく、いかに早期に幅広い疾患に対して保険適用することができるのかがこの治療の普及にとって最も重要な課題と考えている。

3.アカデミア・医療研究としての存在意義

 次世代放射線治療の中心となることが期待される陽子線治療として、開院当初より院外の専門家の意見を聞きながら各診療科と共同でプロトコールを作成しデータ収集を行ってきた。医学物理部門においては大学等との共同研究も行っている。治療開始から8年を経過し論文化も進み始めているが、今後さらなる外部への発信を強めていく必要があると考えている(2020年12月現在主著、共著あわせて英語論文84本)。さらには、新規材料なども積極的に取り入れることで従来の陽子線治療をさらに発展させることに取り組み、発信していくことも重要な任務と考えており、これまで以上に各診療科との密な連携が必要になると思われる。

 今後は陽子線治療の新規の照射法などについてメーカーなど企業との共同研究も視野に入れていく必要がある。また、装置および周辺機器の更新など必要に応じた新規の投資を行っていくことにより、研究機関として情報発信を続け、最新医療提供施設でありつづけることを目指すことが求められていると考える。

4.公立機関としての意義と課題

 公立機関としてこれまで運営を行ってきた最大の意義は中立性の維持と客観的、科学的な診療および研究への取り組みが可能であった点であると考えている。キャンサーボードでの治療方針の議論や運営会議などでの治療内容の公表を行うことは透明性の高い施設運営につながってきたと考えている。

 その一方で、企業との共同研究などについては一定の制約があり、取り組みが難しい面もあった。公立病院という制約のなかにおいても、当センタースタッフとメーカーとの共同開発による特許取得を行うことができた事例もあったが、今後大学病院化することで企業との連携を深めることで新規性の高い発明や特許につながる取り組みをさらに推進していく必要性を感じている。

5.運営及び収支に関する課題

 2021年3月現在、保険で認められている疾患は前立腺癌、一部の頭頸部腫瘍、骨軟部腫瘍及び小児腫瘍であるが、保険で認められた診療報酬は先進医療時の治療単価と比較し55-82%の範囲にとどまっており、収支をいかに改善させていくのかは重要な課題である。まずは多くの疾患において保険適用を目指す一方で、現在高精度放射線治療で認められている呼吸性移動対策加算や小児加算などを陽子線治療においても認められるよう日本放射線腫瘍学会を通じて厚生労働省に働きかけていくことで治療単価を向上させることが最も重要な点と考えている。また、現在前立腺癌を中心に進めている照射回数を減らす試み(寡分割照射)は、患者の通院負担を減らすだけでなく、病院のスタッフの業務負担の軽減にもつながり、結果として収支改善に寄与することが期待されるため、科学的見地に基づいたうえでのさらなる寡分割照射の推進を視野に入れている。

 メディカルツーリズムについては、これまでも少数例に対しては行っているが、国内の患者数があまり多くない状況においては収支改善の一つの選択肢となりうると考えるが、今後の保険適用の範囲変更などにともなう国内患者数の動向を見極めたうえでどのように取り組むべきかを検討していく必要がある。

6.陽子線治療の今後の展望と大学病院化

 陽子線治療は世界的に普及の速度を速めており、国内においてもさらなる施設の増加が見込まれる。国内のみならず海外との情報交換を行いながら、多施設間での問題点の共有とさらなる発展のための共同研究を進めていくことが必要な状況である。現在国際学会などもコロナ禍においてオンライン化が進んできており、IT技術を用いて情報交換の推進を行うことは重要な点と考えているが、大学病院化によりこれらの技術を取り入れやすくなることは大きなメリットと思われる。また、大学病院化することで今以上に各臓器の専門医等との連携強化が図りやすくなることも期待される。

 その一方で大学病院の一診療部門としての位置づけのみでは、これまでの広域的な利用を目指すことで患者集積を図ってきた方法がとりづらくなることも懸念されるため、引き続き名古屋市との密な連携を踏まえた運営が重要であると考えている。

7.これまでの当センターの主な実績
(詳細は名古屋陽子線治療センターHPを参照)

  • 2012年に外部の専門家を加えた会議を立ち上げ泌尿器科、治療技術・物理、生物、肝腫瘍、肺腫瘍、頭頸部腫瘍、骨軟部腫瘍、膵腫瘍のプロトコール作成等施行するとともに西部医療センター内においてキャンサーボードが開催され、2013年2月に治療を開始した。
  • 2016年からは日本放射線腫瘍学会が作成した統一治療方針に基づく治療へと移行したが、当センターで作成したプロトコールはほぼ採用され、それまでの治療を含めた継続的なデータ収集を行っている。
  • 外部有識者による運営会議を2012年から毎年開催し、患者動向、治療成績、先進医療の動向や新規プロトコールなどを報告して、委員から助言・意見等をいただいた。
  • 会発表、論文発表等(2020年12月現在判明分)
    英語論文 84編 和文論文・総説 14編
    国際学会発表114本 国内学会発表243本
  • 競争的研究費獲得状況(2020年12月判明現在)
    代表研究者24件、分担研究者9件 総額7,783万円
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